武将の伝説、実盛坂の謎を解く(前編)からの続き
江戸時代にできた新しい坂、中坂

中坂 (仲坂) なかざか 『御府内備考』に「中坂は妻恋坂と天神石坂との間なれば呼名とすといふ」とある。 江戸時代には,二つの坂の中間に新しい坂ができると中坂と名づけた。したがって中坂は二つの坂より後にできた新しい坂ということになる。 また『新撰東京名所図会』には「中坂は,天神町1丁目4番地と54番地の間にあり,下谷区へ下る急坂なり。中腹に車止めあり」とあり,車の通行が禁止され歩行者専用であった。 このあたりは,江戸時代から,湯島天神(神社)の門前町として発達した盛り場で,かつては置屋・待合などが多かった。 まゐり来て とみにあかるき世なりけり 町屋の人の その人の顔かお (釈 超空) 東京都文京区教育委員会 平成元年11月
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「御府内備考」に「中坂は妻恋坂と天神石坂(天神男坂)との間なれば呼び名とすといふ」とあります。
坂道説明板には、「江戸時代に、二つの坂の中間に新しい坂ができると中坂と名づけた。したがって中坂は二つの坂より後にできた新しい坂ということになる」とあります。
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正保年中江戸絵図を見ると、もうすでに中坂らしき坂があり、開幕後の1603年から1645年の間に開削されたということになります。
ここを訪れたとき、偶然にも、もと喜見院があった場所の裏側近くが工事中で崖が露出していました。

この崖下に大きな池があったとしてもおかしくありません。
江戸初期、中坂ができる前(1945年以前)は実盛ゆかりの池と云われた池に一番近い坂は実盛坂だったのではないでしょうか?
実盛坂は江戸初期からすでにあって、長屋と長屋の間、または寺社と寺社の間の抜け道、細い坂道だったのでしょう。
地形のわかる明治初期の地図で
見てみましょう。

池ができそうな低地一帯が ブルーエリア。紫ラインが中坂、赤ラインが実盛坂です。
実盛坂は明治になっても正式な道として認められいないようです。家と家の間の抜け道です。
中坂を見ると、盛り土をしたり、崖を切り崩し、湯島天神のある台地に、緩やかに登るために作られたようです。
江戸初期の中坂周辺は実盛坂のように崖を急激に登っていた地形だったのです。
江戸砂子のいう「昔は余程の池なりしを近世其の形のみ少しばかり残りたり」は中坂を作るために池の大部分を埋めたので、池が少しばかり残ったと考えられます。
もしかすると、実盛ゆかりの池は中坂よりも、もっと南にはみ出していた可能性さえあります。
物的証拠は揃ったような気がします。
実盛坂の住人たち
しかしながら、なぜ、伝説的人物が出てくるのか?
坂名はそこに住み、利用する住人たちが呼称として呼び、成立していきます。どんな人々が江戸初期に住んだのでしょう?
それを解く鍵は町名です。
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御中間、御小人、御駕籠者。これらは何を意味するかというと、武家に奉公した人たちの職名です。御中間、御小人、御駕籠者の三つあわせて三組丁です。
グリーンラインの町と町の境が実盛坂の位置と考えられます。
初代将軍家康公は元和2年(1616年)駿河で亡くなります。
家康公に仕えていた三組の人々が駿河から帰ってくることになります。
その人たちが江戸初期、土地を拝領して住んだところだったのでこのような町名になっています。
江戸に戻ってきたのは、家康公が亡くなってからの数年後と考えられます。そのころのお江戸はまだ開発途上、中坂は無かったと考えられますし、実盛坂上から、実盛ゆかりの大きな池が見えたのでしょう。
土地まで拝領し家康公には尊敬と感謝の気持ちでいっぱいだったと思います。
その土地にあった坂を「家康公坂」とでも呼びたかったのかもしれませんが、恐れ多いm(_ _)m!
ならば坂上から見える実盛ゆかりの池もあるし、老齢の家康公とイメージのカブる斉藤実盛から名をとって実盛坂と呼んだのではないかと推理します。

ここに来て思ったのは、
坂下から見上げると坂上が神々しく見えるということ。
三組丁の人々は、坂上に家康公の面影を見たのでしょうか?
江戸っ子の気持ちになって考えると謎が解けるような気がします、、、真実はいかに?
実盛坂と呼ばれるようになってから、話好き、話を盛るのが大好きな江戸っ子たちが数々の伝説(実盛の首塚、首洗いの井戸、産湯の井戸 )を引用し、後づけで話を作っていったのではないかと思っております。
一件落着!と思って、明治の地図をよくみると、
小さな凸があります。
実盛塚か?(*’д’*)。
今後も捜査が必要です。
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