「予は何の因果か、生来、お化けが好きである」とはアジア建築史の巨人にして築地本願寺の設計者・伊東忠太の言葉です。子供の頃、度々、幻覚を見て親を困惑させたと云います。

ヒンズーや仏教建築をはじめ、広大なユーラシア大陸を渡り歩き、彼ほど多くのアジアの建築・装飾を見た日本人は他にいないと云われています。

伊藤忠太の旅行スケッチ、漫画は玄人はだし。


化け物、幻獣も好んで描いています。雑誌に連載コーナーを持つほどの腕前。
伊東忠太の建築装飾には彼の趣味が色濃く現出されます。
靖国神社遊就館
伊東忠太の化け物の特徴は「怖くない」「伝承的でない」「写実的でない」の三つの「ない」。時にユーモラスですらあります。
湯島聖堂
関東大震災で焼け落ちてしまった湯島聖堂の再建に当たっては、「一切のことは総て忠実に昔の型にしたのでありますが、旧型よりは幾分か支那趣味を濃厚にしました」と語り、妖獣の迫力がより増して、こちらを睨みつけてます。
築地本願寺
銀座の近くにインド風の寺院があるとは驚き。伊東忠太曰く「だいたいに於いて古代中國・インド仏教式と云うを妥当とす……純正インド式は風土の違いで実施し難きものがあり、適当に改修変形を要する所以なり」と創建の辞に述べています。
雨の多い日本では伝統的な伽藍のように金堂、講堂、食堂、塔などが独立して存在するより、一箇所にまとめてあった方が移動の際、濡れることもなく、一つの大きなスペースを取れることもあり合理的。昨今、築地本願寺で開かれているコンサートやイベントを見れば、伊東忠太に先見の明があったようです。
和印折衷に加えてステンドグラスの洋。パイプオルガン設置のお寺は日本初。
建築進化論を展開した伊東忠太ならではの幅広い許容範囲。

純和風なものを突きつめると西洋に行き着いてしまうという「法隆寺=ギリシャ起源論」も提唱。
そんな建築史の巨人の趣味はやはり変わらず化け物・幻獣。
築地本願寺にもたくさんの幻獣が棲みついています。
築地本願寺が大陸の寺院なら、築地場外市場は活気あふれるバザールのようなもの。築地にはアジアの縮図があります。