昔は急峻な坂で九段の石段があったので九段坂(諸説ありますが)。江戸名所図会をみても、確かに九段あります。徒歩では登れるが、段差が大きかったので大八車は一人では無理。坂下には押し屋がいたそうです。
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面白いことに、江戸名所図会ではお隣の中坂の方が往来が多いのです。江戸後期、商業的に栄えていたのは中坂で九段坂は観光スポットだったと云います。
九段坂は、かなりの急坂でしたが、登ると海が見える絶景。海だけでなく牛ヶ淵、千鳥ヶ淵、江戸城(田安門、清水門)も一望できて、さぞかしキレイだったことでしょう。
夜はお月見の名所としても有名だったといいます。
今も東京で一番有名な坂といえば、神楽坂か九段坂ですが、商業的には神楽坂が一番でしょう。
一方、九段坂のほうは、北の丸公園の入口(田安門)、武道館、桜の名所の千鳥ヶ淵、そして靖国神社という一大観光スポットへと続く坂道です。

読めない漢字、俎橋
九段坂を登る手前、江戸名所図絵の下方で目につくのが「まないた橋」の表記。


九段坂は坂下で日本橋川に架かる俎(まないた)橋と繋がっています。
俎橋???これを読める人はなかなかいません。近くにお台所町があったのでその名がついたという説と、当初はまないたのような平たい板を渡しただけの橋だったという説があります。
坂下近くには江戸城清水門もあります。


清水門をくぐると、あまり知られていない坂があり、時代劇の一場面を想像してしまいます。
九段下のランドマークだった「戦利水槽」⁈
九段下の九段会館(旧軍人会館)は東日本大震災の被害を受け、近々、その外観の半分以上を残してリノベーションするようです。
九段会館のある場所は明治、大正期の古地図を見ると公園だったようです。しかもこの地図には、見慣れない「戦利水槽」の文字が、、、


これは何なのかとググると、、、

このような絵葉書が出てきます。日露戦争時に破壊した鉄道の蒸気機関用給水塔らしいです。
しかしながら、今では忘れ去られているこのようなものが、明治大正期のランドマークだったとは驚きです。なおかつ、これを国威高揚のために持ってくるとは、凄いアイデアです。
牛ヶ淵
九段坂の牛ヶ淵側を登っていきます。
疲れて倒れた牛がここに落ちたので牛ヶ淵。九段坂はそれほど急坂だったのです。


今の九段坂は関東大震災を機に大改修が行われ、ゆるい勾配になりましたが、ゆるい勾配になる前は、都電が上りきれないので、牛ヶ淵沿いの一段低いところを走っていました。
九段坂を登り、最初にみえてくるのが田安門。みなさんご存知、日本武道館の入口です。


やや登り、目に入ってくる変わった建造物、高燈篭(常燈明台)。昔は海からも見えたので灯台としての役目をしていて、品川沖をゆく船から見えたと云います。どうりで灯台のような形をしています。
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さすがに観光スポットだけあって残されている写真は多いです。



古写真によると高燈篭(常燈明台)は、九段坂上にあったようですが、今では九段坂公園に移設されています。
九段坂公園には明治の重鎮、大山巌、品川弥二郎の銅像もあります。


千鳥ヶ淵
九段坂を登りきると、春の桜名所、千鳥ヶ淵です。遠くに東京タワーが見えて夜景が最高です。
牛ヶ淵、千鳥ヶ淵の反対側を歩くと、靖国神社が見えてきます。なんとも、名所の多い坂です。

靖国神社の大村益次郎像は双眼鏡を持ち、上野のお山を見て上野戦争の指揮をしています。

上野戦争ー残された弾痕を参照へ
池波正太郎先生の九段坂
九段坂で思い出すのが、池波正太郎先生が小説「江戸切絵図散歩」で少年時代の思い出を語っています。要約すると
九段坂を登り、坂上の堀端で写生をしていると、パナマ帽をかぶってステッキをついたご老人が絵に見入っていた。 ご老人は絵をくれないかと言う。 池波少年は絵を手渡すと、ご老人は五円札(当時としては大金)を渡そうとする。 いらないよ、あげるよと断って靖国神社の方へ歩いて行くとご老人はあとをついてくる。 なんでついてくるのと尋ねると、ご老人は目をまっ赤にして涙がこぼれそうになっていた。 池波少年はびっくりして九段坂を一気に駆け下りた。 家に帰ってお母さんにいうと 「その人はあなたぐらいの子を無くしたのだろうよ」と
これを読んだ時、ホロリと泣きました 。
そして池波先生のファンになると同時に、江戸切絵図に興味を持つきっかけとなるのでした。
池波先生のように、さらりと感動できるような文章を書きたいものです。
池波先生は「現代の道は人のためでなく、車輌のための道である」とおっしゃっています。確かにそうです。
坂道は人が登れば苦しいし、下れば楽々感を得る。坂下が平地だと安堵感と同時になんとなく物足りなくも思います。
坂道を車でゆけば、そんな感慨は生まれません。
坂道は人に感情の機微を与えてくれるので好きなのです。
九段坂は歴史があり趣のある見所の多い坂です。
靖国神社に関してはこちらをご参照ください。
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