佃祭り

落語「佃祭り」の古地図

文七元結」のような人情噺、「永代橋」のように実話をもとにした滑稽噺。この二つに似た贅沢なお噺があります。
そもそも人にかけた情けというもの、忘れてしまうのが本当の情けだと云いますが……。

神田お玉が池の小間物屋の次郎兵衛。夏の佃島・住吉様「佃祭り」の見物を楽しみにしております。

住吉神社
住吉神社。
町々に潜む邪気を払う獅子頭
町々に潜む邪気を払う獅子頭。

その日は朝、女房のお駒から……
お祭りがお白粉つけて待ってるんでしょっ」とヤキモチを焼かれますが、暮れ六つ(夏だと午後六時頃)の終い船(最終便)で帰るからと説得して家を出て行きます。

日本橋北内神田両国浜町詳細図より「お玉稲荷」(クリックで拡大)。
お玉稲荷。
お玉ヶ池児童公園のお玉ヶ池の碑。
お玉ヶ池児童公園のお玉ヶ池の碑。

次郎兵衛さん、本湊町の渡しから船に乗り、佃島で祭りを堪能します。

嘉永二年(1849年)築地八町堀日本橋南絵図より佃島。
嘉永二年(1849年)築地八町堀日本橋南絵図より佃島(クリックで拡大)。
本湊町の渡し場跡。
本湊町の渡し場跡。
歌川広重画「佃じま住吉の祭」。
歌川広重画「佃じま住吉の祭」。

獅子頭

獅子頭の宮出し。
獅子頭の宮出し。

昭和三十四年の佃祭り。
昭和三十四年の佃祭り。

日が暮れはじめて、終い船に乗ろうとすると、
とある女性に「旦那さま、お待ちなすって」と、袖を引かれ引き留められます。

佃島側の渡し場。
佃島側の渡し場。

女性は五年前に奉公先で五両の金をなくしてしまい吾妻橋から身投げをするところを次郎兵衛に助けられ、五両の金をもらったと言うのでした。

江戸名所図会より大川橋(吾妻橋)
江戸名所図会より大川橋(吾妻橋)(クリックで拡大)。

そのことをすっかり忘れていた次郎兵衛、やっとのことで思い出しますが、終い船は出てしまい、女性が嫁いだ船頭の家に行きます。しばらくすると周りがザワザワ、亭主の船頭・政五郎が駆け込んできます。

江戸名所図会より住吉神社
江戸名所図会より住吉神社(クリックで拡大)。

亭主は終い船が転覆して乗客全員溺れて死んだと告げます。女性のお陰で命拾いをした次郎兵衛。船頭夫婦からお礼を言われ、酒と肴のもてなしを受けながら今夜はここに泊まり、翌朝、船頭の船で帰ることにします。

佃島の漁船。
佃島の漁船。

お玉ケ池の家では

一方、佃島で船が転覆して全員溺れ死んだと聞いて、次郎兵衛の留守宅は大騒ぎ。話は口伝で大きくなるもの、津波がきて佃島全滅、佃島には誰もいないなどいうウワサ。
泣き崩れる次郎兵衛の女房を助けて、町内の人々が葬儀の準備。悪い事は早く片付けたほうが良いと「忌中」の札を張り、棺桶を運び込み、僧侶を呼び、おくやみの客がぞろぞろ来ます。

翌朝、女の亭主の船頭に送ってもらい次郎兵衛が帰ってきて「忌中」の札を見てびっくり。皆は次郎兵衛の姿を見て「わあ、幽霊だぁ~、どうか浮かんでください」「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏……」と大騒ぎ。やっと次郎兵衛の話を聞き、皆が納得、大喜びします。

この話の一部始終を聞いていたのが長屋の与太郎。「人に情けをかければ、いずれ自分にかえってくる」と得心します。与太郎は持ち物すべて売り払い、何とか二両の金をつくって、毎日まいにち身投げを探して隅田川沿いを歩き廻ります。
ある日、永代橋に来ると、身投げをしようとする女を見つけて引き止めます。

江戸名所図会より永代橋(クリックで拡大)。

店の金、五両を落として身投げをするという女。与太郎は二両渡して身投げをやめさせようとするが、女はどうしても五両なければだめだと言います。
与太郎
二両あげるから今日の身投げはへそまでにしておきなさい」

戸隠さまの梨

本来のサゲは、永代橋の身投げの女。女は身投げではなく歯が痛いので戸隠さまへ願をかけているのだと言います。たもとに石がいっぱい入っているじゃないかと与太郎が問うと、女が「これは戸隠さまへ納める梨でございます」というもの。歯痛には戸隠さまに願を掛け、梨を川に流してその後、梨を断つと歯痛が治るという信心。古来からの風習を知らないと分からないサゲです。

なので最近は、へそまで身投げや、せっかく買ってきた棺桶を近そうな長屋の婆さんにあげるなど、現代人にも通じるサゲになっています。

実際にあった渡し船転覆事故

明和六年(1769年)旧暦三月四日、住吉神社の藤棚見物客を満載した船が転覆・沈没。乗客三十余名が溺死します。

延宝八年(1680年)江戸方角安見図より。
今は小さな住吉神社の藤棚。

江戸湾にポツリと浮かぶ佃島は昭和の半ばまで渡し船が運行しますが、昭和三十九年、佃大橋が出来てから、また周辺の埋め立ても進み、今では、都心の一部となっています。

佃の渡し船。
佃小橋。
佃大橋と佃島エリア。

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