今川橋、十軒店、三井越後屋を過ぎると、いよいよ日本一にぎやかな日本橋室町の魚河岸。
室町とは、保管庫としての「室・むろ」がたくさんあったからとも、京都の室町の繁栄にあやかって、とも云いますが、その歴史は古く、家康公から領地を授かった三浦按針(ウイリアム・アダムス)の地「安針町」もあります。


東京駅近くの八重洲もヤン・ヨーステンの拝領地。日本橋にはオランダ宿「長崎屋」があり、魚河岸、五街道の起点ということだけでなく、先端文化が芽生えそうな素地が見え隠れ。

杉田玄白・前野良沢の「解体新書」も、ここ日本橋から発行されています。
室町二丁目

★印は以下に拡大画像と注釈があります。
★書肆「須原屋市兵衛」
解体新書の版元。今川橋の「須原屋善五郎」の暖簾分けの親もとです。前野良沢の家は築地にあって、杉田玄白は足しげく通ったようです。

★老夫婦の引越
荷車のたくさんの荷物から見ると、大店のご隠居夫婦か?
★竹ザル売り
日用品とて路地の隅々まで行商に来てくれるお江戸は宅配便が無くとも意外と便利。
★鷹匠
鷹狩の鷹の調教最終段階。大通りを歩いて大勢の人間に馴らしています。
★タガ屋
樽の修理屋。緩んだ竹のタガの修理交換。店々の前には樽の防火水槽、二階の屋根の上には火の見台の多い日本橋。
★四件並んだ「木屋」

「木屋」の経営方針は取扱商品の少しずつ違う小間物店を暖簾分けすることで競合を避け、いわば「木屋グループ」を形成。普請中の木屋幸七の看板は「普請之内蔵ニ而商売仕候」。「工事中でも裏の蔵で商いしてます」とのこと。たくましい商魂。
井桁に木の暖簾、刃物の木屋は今も日本橋に残る名店です。

室町一丁目

★かまぼこ屋
古くは材料を竹の棒に筒状に巻いて作り、その形が蒲(がま)の穂に似ていることから「蒲鉾」。板にすり身を盛るのは江戸時代になってから。魚河岸近くならではの商売。日持ちするので贈答品としても人気。
★照り降り屋「嶋屋」
雪駄と傘を商いする「嶋屋」は全天候型。晴れた日には雪駄、雨の日には傘が売れ筋になるので「照り降り屋」。
★金山寺味噌
味噌のブランド「金山寺味噌」の売り歩き。金山寺味噌はなめ味噌の一種で酒の肴に最適。
★お菓子の立て売り「近江屋」
餅を壺に入れたタレにつけ、傘に吊るした紙に包んで。日本橋は通行人が多く、歩きながらの立ち食いが中心。
★反故紙(ほご紙)買い
古い帳面や取引を記した紙がたくさん出る日本橋。古紙を計り買いするリサイクル業者。

★味噌問屋「太田屋」
大きな板看板には「上赤味噌大安賣」。屋根の上には味噌樽を乗せ取扱商品が一目瞭然。
★菜売り
日本橋近くの神田多町にはやっちゃ場があり、そこで仕入れた青物を売ります。

★結納品問屋「万屋」
赤い双鯛に「御結納」の看板。日本橋には家紋を見せつける結納品の荷が多くパレード。
★喧嘩

「火事と喧嘩は江戸の華」。魚河岸近くは赤ら顔の棒手振り(ぼてぶり、一心太助のように天秤棒担いで商売)たちが喧嘩。みなさんお江戸の名物を見物。
品川町裏河岸

★酒の立ち売り
赤ら顔の棒手振りたちが多いのは、朝一のひと仕事を終えて昼から呑む習慣のため。日本橋通りの真ん中で酒類商売するとはなんとも大らかな。
★土物売り
土物とはダイコン、ニンジン、ゴボウなど土中でできる野菜。初春なら目黒のタケノコが旬。
★魚の立ち売り
魚河岸で仕入れた新鮮な魚を日本橋通りで売りますが、当初、場所取りのもめ事が絶えなかったので、町が仕切って使用料をとって160人ほどの立ち売り業者に権利を与えます。
★鰹の立ち売り
「目に青葉 山ホトトギス 初鰹」。十軒店では雛市と桃の花、魚河岸では初鰹と、初春を彩る光景。江戸っ子は初物好き。
★釘店
品川町裏河岸(裏がし)のまたの名を「釘店」。釘や金物を扱う店が多かったのが由来。

「ごめんよっ、ごめんよっ」と大勢の人をかき分けかき分け、きっぷの良い口上で売る声が聞こえてきそう……ゆっくり売っていたんじゃ腐っちまうよっ!


日本橋



ご存知、五街道の出発点。最初は二本の丸太が掛かっていたので二本橋と云った……ウソのようなホントのような、よくわからないお話。日本国道路元標原本は橋中央の安全地帯に埋め込み。


★擬宝珠
千代田のお城の御門の橋以外、町方の橋で擬宝珠があったのは日本橋、京橋、新橋だけ。擬宝珠の意味は御公儀直轄。寺社仏閣と同等な格式の高さを表しています。その割に酔っ払い、立ち売りが多いのは確か……。
★押送り船
六人漕ぎの高速艇。遠くは房総辺りから毎日、活きの良い魚をお届けします。
★お武家の一行
轡取(くつわとり)を先頭に馬上のご主人様、槍持、鋏(ハサミ)箱持、合羽(カッパ)籠持の徒歩で従う御徒(おかち)衆。
★橋屋根
木口の腐食を防ぐため小さな屋根をつけて。大事な橋の証し。
★水の都・お江戸
江戸中に張り巡らされた運河の一つである日本橋川を見下ろせば、高速艇、運搬船などが引っ切り無し。泳いで遊ぶ子供も。

高札場のある日本橋南詰め
今の日本橋観光案内所の隣が高札場跡。ここには家族近所仲良くなどと、ベーシックなお触れは常時掲載。その都度の禁令などは入れ替わり。

人物1671人、野犬20匹、馬13頭、牛車4輌、猿1匹、鷹2羽が描かれ、お江戸の文化風俗がわかる「熈代勝覧」絵巻をご覧になってから日本橋を散策するとタイムスリップ。お江戸への想いが拡がります。(完)