嘉永六年(1853年)三月、坂本龍馬、十九歳の時、修行のため江戸に出立。江戸では、土佐藩の築地中屋敷に投宿し、輝ける明日を夢見たことでしょう。


若き龍馬は「小千葉」と呼ばれた北辰一刀流の鍛冶橋門外・千葉定吉道場の門を叩きます。「大千葉」千葉周作のお玉が池「玄武館」の兄弟道場です。



その頃の「大千葉」玄武館には山岡鉄舟、浪士組の首謀者・清河八郎、桜田門外の変の有村次左衛門、新選組の伊藤甲子太郎、山南敬助らそうそうたる面々が集い、桂小五郎(後の木戸孝允)、伊藤俊輔(後の伊藤博文)らは神道無念流・斉藤弥九郎の九段坂上「練兵館」に籍を置いています。
幕末のサロン・剣術道場

幕末江戸の道場は剣の腕を磨くだけではなく、志士たちが思想を語り合いながら情報を得るコミュニティサロンとなり、皮肉なもので、いつしか「剣では世の中は変えられない」と思う人々の、人脈づくりの場となっていきます。
しかしながら、なぜ、日の本一の大道場「大千葉」ではなく「小千葉」への入門なのか?それはどうやら、龍馬が土佐の郷士(江戸以前の長曽我部氏に仕えていた侍)出身という身分に関係しているようです。身分制度の厳格な時代のこと、土佐藩の方針なのか、龍馬の遠慮からだと云われています。
龍馬 vs 桂小五郎
2017年10月、龍馬と桂小五郎が剣術大会で対戦した記録が発見されます。
龍馬二度目の江戸滞在時のこと、安政四年(1857年)三月一日、場所は鍛冶橋門内・土佐藩上屋敷に於いて。

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ここで藩主山内容堂公上覧の試合がおこなれ、結果は二対三で龍馬の負け。勝敗はともかく、幕末のビックネームたちが対外試合を通じて面識を得、繋がりを持っていたことがわかります。
試合後、呑み交わしながら日本の行く末を語り合っていたかと思うと夢が拡がります。
西洋砲術

龍馬は剣の道で身を立てようと思っていたのでしょうか?
近年の研究では、江戸での修行は剣術だけではなく、西洋砲術習得も目的の一つだったと云われています。
土佐藩としても砲術熟練者を求めていたご時勢。龍馬は、地元土佐でも高島秋帆の高島流砲術を学んでいます。

嘉永六年六月三日(1853年7月8日)黒船来航。以後、幕府は各藩に海岸防備を命じます。
同年十二月、龍馬は、木挽町の佐久間象山塾に入門。西洋砲術を学びます。


高島流に比べ、象山塾は、危急の時勢であることを理解しているので実践的でスピーディな教育です。
この時、佐久間象山の門弟には勝海舟、吉田松陰らがいました。剣術だけでなく砲術も学んでいたことが、龍馬の幅広い人脈、のちの思想形成、海運事業にも役立っています。
海岸防備


嘉永七年(1854年)土佐藩は鮫洲に抱屋敷を持っていた関係上、浜川砲台を造成しています。
この時、二十歳の龍馬も尽力しています。「陸上砲台に比べ、船舶砲は海上を移動しながら射てる」。海岸防備を超えて、海軍の優位性を身を持って感じたことでしょう。

その後、土佐に帰国。
土佐において、安政二年(1855年)十一月、二十一歳の龍馬は十二ポンドカノン砲の試射をしたとの確かな記録が残っています。このことから見ても、江戸での龍馬の主目的は西洋砲術習得にあったと云われています。
赤坂氷川で勝海舟の弟子に
土佐藩を脱藩した龍馬は、文久二年(1862年)三月二十四日、松平春嶽公の紹介状を携え、赤坂・氷川の勝海舟邸を訪れます。

俗に言う、龍馬は千葉重太郎(小千葉・千葉定吉の息子)とともに、開国論者である憎っくき勝海舟を斬ろうと思いやってきたというのは間違いです。
この逸話の出典は、明治23年(1890年)勝海舟本人が語ったとされる「追賛一話」にある
坂本龍馬と千葉周太朗(重太郎)が、氷川の家にやってきて、オレの話したことによっては「刺そうと思ってきましたが、先生の説を聞いて恥ずかしくなりました、弟子にしてください」 (現代語訳)
という記述ですが、これは勝の記憶違いか、またはインタビュアーの創作の可能性が高いと云われています。西洋砲術を学び、海軍の必要性をヒシヒシと感じていた龍馬が、佐久間象山塾の先輩、同じ思いをいだく一回り上の先輩、いまや幕府軍艦奉行並に出世している大先輩を斬ろうと思っていたのか?、ましてや勝海舟暗殺などという茶番劇はあろうはずも無く。
実際には、龍馬は、門田為之助、近藤長次郎の海援隊の面々とともに訪れ、その場で勝の門人になっています。

勝海舟が明治になってから住んだ場所には「勝海舟・坂本龍馬師弟像」が建っています。立会川より少しだけ大人になり筋骨たくましく、ブーツを履いた龍馬と、男前の勝海舟です。
師弟は海軍伝習所でともに励み、幕末の荒波へと「日本を洗濯する」旅へと、舵を切ってゆくのでした。
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